くにたまの会

由緒・沿革

 御祭神は皆、霊験あらたかな国土開拓、国造り、縁結び、農業、医薬業をはじめとする万物の生命と諸産業繁栄を司る祖神である。
 万九千社は、神在月に全国の神々が最後に滞在され、神議、直会(宴)をして、お旅立ちになるとのいわれから、諸願成就するとの崇敬を集めてきた。
 近年は、こうした御神徳から、縁結びや病気平癒はもとより、諸会議や宴会の円満成就、飲食業の商売繁盛、旅行の安全無事、宿泊施設や旅行業者の業務発展、人生の岐路、例えば起業・就職・進学等の成功などのおかげをいただこうと全国各地からお参りがある。
 神在月の最後にこの地へ神集い給う八百万神に習い、出雲路の旅の締め括りにと、当社で祈願を結ぶ、「むすび参り」やご神前で「なほらひ」する老若男女があとを絶たない。御由緒と御神徳にかなう微笑ましい今日の祈りの姿である。

 遥か古より、「不動の霊地」とされる鎮座地は、古代、出雲国出雲郡神戸郷と呼ばれていた。神戸とは、熊野大神と杵築大神の御神領のこと。水路と陸路における交通の要衝として、また、斐伊川下流域に広がる稔り豊かな大地の鎮めとして、重要な祭場として今に至っている。
 万九千社の創祀、創建は定かではない。奈良時代に編まれた『出雲国風土記』や平安時代の『延喜式』にみえる「神代社」、「神代神社」が、のちの「万九千社」にあたると伝えている。少なくとも約千三百年前には、その歴史をさかのぼることができる。
 中世になると、当社は、「神立社」(鎌倉時代頃)や「神達社」(安土桃山時代)と称されていた。
 近世になると、「神立大明神」、「万九千大神」などと称され、明治維新以後は、立虫神社(旧村社)の境内社(旧無格社)、「万九千社」として祭られている。

特殊神事、地域の伝統行事

 古来、全国では旧暦十月を神無月といい、出雲では神在月と呼んでいる。全国の八百万神が出雲に集まられ、国家安泰、五穀豊穣、縁結び等の神議をなさるからとされる。
 八百万神は、出雲大社、佐太神社など出雲国の複数の神社に滞在のうえ神議なさる。
 万九千社においても、十七日から二十六日までを神在もしくはお忌みと称して、神在祭を齋行する。
 まず十七日の早朝、神迎えにあたる龍神祭を、宮司一人が、神社近くの斐伊川の水辺で秘儀として行う。そして、神籬に宿られた神々を神社へとお遷しする。この日をお忌み入りと呼び、以後、境内周辺では、奏楽をはじめ歌舞音曲の一切を禁止する。斎場の静粛と清浄を保ちながら、二十六日の例大祭、神等去出祭を迎える。
 大祭前夜の二十五日には、神職のみで前夜祭を行う。
この晩、宮司等が社殿内に寝泊りする「お籠もり」も行う。
 さて、二十六日は大祭で、「万九千さん」「からさでさん」と呼ばれ親しまれている。八百万神が集い給う御社頭には、県内外から多くの参拝があり、境内では名物の植木や海産物、金物などの露店が所狭し並ぶ。
 殿内では一貫して静粛と清浄を旨とし、僅かに神職のふる鈴の音が響くのみだが、御神前において各種の特別祈願、御祈祷が行なわれる。来年の稲の出来高を占う「御種組」がその代表的なもので、祈願者には、神占による御札や種籾、お御供と呼ばれる小餅を授ける。
当日夕刻、御神前では、八百万神に出雲からのお立ちの時が来たことを奉告する「神等去出祭」が厳かに行われる。神事では、宮司が幣殿の戸を梅の小枝で「お立ち」と三度唱えながら叩く特殊な所作をする。
近世の記録や伝承によれば、この神等去出祭は、かつて神社の南方約数十㍍の地点にあった、屋号「まくせ」と呼ぶ民家の表座敷で湯立神事を伴うものだったとか、古くは、社頭の東南に仰ぎ見る神名火山(現仏教山)の麓で火を焚いて神々をお送りしたとも伝えられている。
 さて、この晩、神々は当地において直会と呼ぶ酒宴を催し、明年の再開を期して、いよいよ各地の神社へと帰途につかれる。鎮座地周辺の地名「神立」はこれに由来する。
 地元では、古くより神在月における神々のお立ちを「からさで」と呼び慣わしてきた。この日は、なぜか大風が吹き、雨や雪、みぞれもまじる荒天になることが多く、「お忌み荒れ」とか「万九千さん荒れ」ともよばれる。人々は、北西の季節風が吹きすさぶ、晩秋から初冬への厳しい季節の移り変わりに、神々の去来と神威の発揚を実感したのであろう。からさでの夜、地元では境内を覗いたり、外出したり、大声を出したりすると神罰があたると恐れ慎み、寝床について静かに神々をお送りする風習が伝えられている。しかし、こうした目に見えぬものに対する畏敬の念も年々薄らいでいくようでいささか寂しい気がする。
 なお、当社ゆかりの神在祭、神等去出祭の伝承に基づいて、近くの斐伊川にかかる国道の橋名が、「神立橋」、「からさで大橋」と命名されている。

万九千神社

まくせのやしろ

鎮座地
島根県出雲市斐川町併川258番地
URL
http://www.mankusenjinja.jp/
御祭神
・櫛御気奴命
・大穴牟遅命
・少彦名命
・八百萬神
例祭日
神在月(旧暦十月)
・十七日:龍神祭
・二十五日:前夜祭
・二十六日:例大祭(万九千さん)(夕刻、神等去出祭り)
・二十七日:新嘗祭(あとまつり)
交通
JR出雲市駅より車で12分、出雲縁結び空港から車で20分
Map
島根県出雲市斐川町併川258番地